味の素 サステナビリティの取組み
Tweet(この内容は21年9月29日に開催されたIR Dayの内容の一部を書き起こしたものです)
西井社長:ビジョン2030年の実現のための主要な戦略についてであります。環境負荷削減と健康寿命の延伸は、ともに社会的には繋がりの深い課題であります。当社にとりましても、この両方の課題解決に取り組むということは、フードシステム、すなわち当社にとってのバリューチェーンで繋がっております。
ビジョン実現の戦略の前提として、我々のASV系企業価値向上サイクルについて表しております。従業員のエンゲージメントを顧客系経験の競争の方に向かわせて、株主価値に繋げ、投資家、株主様からの信任と投資を得て、エンゲージメントが高まるこの正のサイクルを、企業価値と定義をしております。
全体の取り組み
今のサイクルを少し要素分解をしてみました。まず経営と従業員の信頼、共感関係をパーパスとビジョンで繋いでおります。そして妥協なき栄養、サステナビリティ、それに加えて新事業モデル創造や、ブランド強度を高めるための主要な戦略で、カスタマーエクスペリエンスを創造することによってブランド価値や製品単価向上、これによる付加価値の創出を実現して、株主の皆さんや投資家に還元をしてまいります。そしてまた投資家の皆さんからの再投資が経営と従業員を動機づけると、こういうサイクルになっております。そしてこのサイクルの方向づけ、モニタリングが取締役会の重要審議事項という位置づけになってございます。
ビジョン2030のサステナビリティの取り組みの当社の現状課題をこちらに示しております。一言で申し上げますと、サステナビリティの取り組みは、まだ現在トレード事業と成長とこの企業価値向上とのトレードオフのイメージが強うございます。この取り組みを、企業価値向上にどう繋げていくかというのが我々の今の課題であります。
こちらのフェーズでは、サステナビリティの取り組みを価値向上に繋げたい、トレードオフからトレードオンへという考え方を示しております。ASV経営においては、目指すサステナビリティは環境負荷を下げる取り組みを、より独自なイノベーティブな取り組みによって、お客様をより健康と豊かな状態にし、つまり、Well-beingの状態にしていくこと、そして、これによってサステナビリティをトレードオフからトレードオンにしていくという考え方で取り組んでまいります。
こちらは取締役会に付属しますサステナビリティ諮問会議のメンバーの皆様の、いわゆるスキルマトリックスをお示ししております。この諮問会議は2023年以降、2年後のマテリアリティを取締役会に諮問をいたします。
サステナビリティ課題のうちこの諮問会議で重視をいたしましたのは、環境課題につきましては、当社はかなり様々な皆様のご意見を認識できていると考えておりますけれども、やや苦手としております分野の多様性社会、そしてまた人の栄養とWell-being、今後のWell-being、そしてまた投資家の皆さんのアップデートされた動き、これを反映するメンバーとさせていただいております。
また加えて、中核となります我々の活動を、日本を含むASEANでの社外ネットワーク作りでやっていこうと考えておりまして、その意味で有効な示唆をいただけるメンバーとさせていただいております。
アミノ酸の活用で、地球環境や持続可能な社会に貢献
味の素グループのサステナビリティの取り組みについてご紹介をさせていただきます。
今日の内容は大きく四つの塊でお話をしたいと思います。
まず最初に、味の素グループのビジョン、そしてストラテジーです。味の素グループはアミノ酸の働きで食習慣や高齢化に伴う食と健康の課題を解決し、人々のウェルネスを共創するそのビジョンの実現に向けて、2030年までに50%の環境負荷の削減、そして10億人の健康事業延伸という二つのアウトカムを掲げています。我々の事業は、例えばコアのアミノ酸生産はサトウキビなどの地域の農作物を原料にしておりますし、例えばCook Doで栄養をお届けするというのも、野菜や肉などの食材が安定して手に入る前提で成り立っています。つまり我々の事業は安定したフードシステムの上に成り立っていると言えます。
一方で私達の事業は、事業を通じて環境に大きな負荷もかけています。地球環境が限界を迎えつつある現在、その再生に向けた取り組みは私達にとって喫緊の課題であると考えています。よってビジョン実現に向けて、この2つのアウトカムを両立して実現することが重要と考えています。
さらには、負荷を低減するだけではなく、事業を通じてよりポジティブに地球環境の再生と、そして強靭で持続可能なフードシステムの構築に貢献をしていきたいと考えています。地球環境の負荷削減、そして再生と、それから健康で豊かな暮らしへの貢献、この2つを両立して、そしてしっかりと経済価値の向上に繋げていくこと、つまりトレードオンにしていくことを目指しています。
次に、味の素グループのコアコンピタンスであるアミノ酸の働きについてお話をします。ご存知の通りアミノ酸は人の体を構成する最も基本的な成分です。筋肉や皮膚だけではなく血液、ホルモン、そして神経伝達物質などもアミノ酸によるものです。つまり、アミノ酸がバランスよくあることで、人は健康で良い状態が保てていると言っても過言ではありません。
そしてそれは人だけではなく動物、植物、微生物、細胞においてもそうで、生きとし生けるもの全ての生命の源がアミノ酸であると言えます。またアミノ酸には、おいしさである呈味機能、そしてたんぱく質の最小単位としての栄養の機能、そして健康に役立つ生理機能があります。それらの機能は、食の3つの機能、栄養、そして嗜好性、生体調整に働くという、これとまさに3つ重なります。
だからこそアミノ酸の働きを上手に使うことで、食や健康の課題が解決できると考えております。さらにアミノ酸には、反応性という性質がございます。その反応性を生かして、新たな素材やそして製法などのソリューションを生み出すこともできます。 後ほどご説明をさせていただきます。電子材料の事業もこの反応性を活用した事業になります。アミノ酸の働きとは、今ご紹介をしました様々なアミノ酸の機能に加え、私どもがアミノ酸研究で培った、発酵であるとか微生物であるとか、その周辺技術も含みます。生きとし生ける者の生命の源であるアミノ酸の働きを活用することで、人の健康はもちろんのこと、植物、農業への貢献など、地球環境や持続可能な社会に向けて広く貢献できる可能性を秘めていると私達は考えています。
10億人の健康寿命を延伸
ここからは10億人の健康寿命延伸に向けた取り組みについてお話をしたいと思います。
こちらは味の素グループの栄養のアプローチであるNutrition Without Compromiseという考え方を示したものです。私達は過剰栄養と、不足栄養の二重負荷に対応して、この図の左右にありますように、減らすべきものとしておいしい減塩、あるいは減糖、減脂、それから増やすべきものとして、たんぱく質の摂取、野菜、果物の摂取などを掲げています。
全て従業員が取り組むわけですので、全てのベースとなるまず自分たちから健康にということで、職場の栄養改善にも取り組んでいます。そしてそれらの取り組みを推進する独自の戦略として、「妥協なき栄養」というのを掲げています。妥協なき栄養というと聞き慣れないかもしれませんけれども、通常は相反する両立しないものを両立させていこうという考え方です。妥協なき栄養には、3つ柱がございます。「おいしさに妥協しない」、「食へのアクセスに妥協しない」、「地域や個人の食生活に妥協しない」です。
おいしさに妥協しないと言うのは、例えば健康のためには減塩というのはとても大事ですが、ただ塩分を減らしただけでは、メニューが物足りなくなって料理の味がおいしくなくなります。
そこで、うま味や弊社のおいしさ実現技術で、おいしさ設計技術ですね、おいしさを減らすことなくおいしいまま減塩ができるということで、そうすることでおいしいので毎日続けられる、減塩が定着するということになります。つまり、通常は両立がなかなか難しかった、おいしさと減塩を両立させるアプローチです。食へのアクセスというのは、誰でも栄養が摂取できるということで、例えば料理に不慣れな男性でも失敗なくおいしく作れるといった、そういう視点も含んでいます。
それから三つ目は、地域や個人の食生活、こちらは地域やエリアの食文化を尊重した上で栄養改善に取り組むというアプローチです。味の素グループの商品は、例えばほんだしのような風味調味料ございますけれども、各国で展開をしておりますが、例えばタイ、インドネシア、ブラジルなど、国ごとにレシピも違いますし商品設計も違います。
それはそのエリアの食文化に寄り添って商品を展開してきた歴史があるからです。地域の食文化を尊重する考え方は、従来から味の素グループのアプローチでもあると考えています。私達はこの妥協なき栄養の考え方で、栄養改善に取り組み推進していきたいと思います。
次に10億人の健康寿命延伸に向けての道筋をお話したいと思います。
現在味の素グループでは、世界中で7億人のお客様との接点があります。これはまだまだおいしさ中心の接点ですが、それを2030年には10億人のおいしさと栄養バランスの両立する設定にしていきたいと考えています。その推進に向けて、今年栄養コミットメントを策定いたしました。栄養コミットメントは、グローバルで最も広い接点を有します商品味の素を中心とした、うま味によるおいしい減塩、それから健康に役立つ製品の提供、そしてメニュー、レシピといった情報やサービスの提供の3つの柱がございます。
そしてそれらの基盤として、職場の栄養改善ということで従業員の栄養教育を位置づけています。2030年には栄養価値製品の比率を全体の6割にする、あるいは減塩・たんぱく摂取商品を年間4億人に提供するといった定量目標も設けて、今、グループ一丸で推進をしています。また、アカデミアとの共同によるイノベーション、あるいは様々なステークホルダーとのエコシステムにも取り組むことで、この10億人の健康寿命延伸に向けての道筋へ、さらに加速・高度化していきたいと考えています。
栄養改善への取組結果を定量的に評価する
では栄養改善の成果としてのアウトカムの可視化、定量化についてお話をします。
現在味の素グループでは、栄養成分量をスコア化して栄養価値を見える化するツールとしてANPS、味の素グループニュートリーションプロファイリングシステムというものを導入して栄養価値見える化を推進しておりますが、現在の製品ベースのANPS-P、プロダクトのPです、に加えて、将来はメニューベースのANPS-Mを導入することで、喫食メニューベースでの栄養価値の見える化を推進していく予定です。
加工食品だけで生活しているという人はほとんどいなくて、世界中の人々の多くは、その地域の食材を、野菜などを調味料で調理をして食べているということがございますので、メニューベースで栄養価値を見える化するということは、あらゆる人の栄養改善に繋がると考えています。
評価インデックスとしては、WHOの指標でもあります障害調整生存年数(DALYs)の活用に加えて、今後主観的なWell-beingの可視化、定量化も図ってまいります。2030年にWell-beingを世界のアジェンダにしていこうということを目指しております、Well-being Initiativeとも協働して現在取り組んでいます。
例えば病気を抱えていても、あるいは身体に障害があっても、充実感を持ち日々幸せを実感して生きている。これは真の健康と言えると考えています。主観的Well-beingの要素を加えることで、健康寿命の概念の進化もさせていきたいと考えています。
ここからは栄養改善の取り組み、具体的な事例をご紹介したいと思います。
まず、おいしい減塩です。昨年の7月に「Smart Salt(スマ塩)」プロジェクトをキックオフいたしまして、グローバルに今展開をしております。うま味、だしを効かせたおいしい減塩ということで、減塩の商品、レシピ、そして消費生活者に対しての意識の啓発などの情報もセットで、現在グローバルに力強く展開をしております。
おいしい減塩についてはアカデミアとも連携して、うま味の減塩インパクトの検証も進めております。米国の先行研究では、MSGを使用することで、加工食品から塩分摂取量をだいたい3から8%減らせうる結論を得ました。同様の研究をG20の主要加盟国で展開すべく現在進めておりまして、日本においては、うま味を活用することで食塩摂取量を12から21%減らせうること、そして日本の摂取基準であります7.5グラムにかなり中央値が近づくということも確認できております。今後この結果とDALYs (障害調整生存年数)を繋げることで、うま味によるおいしい減塩の健康寿命へのインパクトも見える化していく予定でございます。
次の具体的な事例としては、たんぱく質の代替の取り組みをお話ししたいと思います。
当社のおいしさ設計技術を活用することで、健康にも環境にも良い、植物たんぱく素材のおいしさ向上に現在グローバルに展開しております。
ハンバーガーのパテがその代表選手ですけれども、さらに植物性のミルクであるとか、チーズなどの乳カテゴリーにもその取り組みが広がりつつあります。また日本ではDAIZ社、独自の大豆発芽技術を有するスタートアップですけども、そのDAIZ社とも協業し、おいしさと栄養に優れた大豆たんぱくの素材の普及を目指しております。
健康と環境の両方の課題解決に貢献する新しい野菜、葉野菜「MANKAI」でございます。藻類の一種でして、環境負荷が少ないサステナブルな方法で栽培されていて、たんぱく質をはじめ、豊富な栄養素が詰まっております。たんぱく質で栄養価を示すアミノ酸スコアは100ということで、卵と同じだけのたんぱく質の栄養価と言えます。今年次世代ベジタブルドリンクという形で自社通販から発売を開始しております。
温室効果ガスをはじめとした環境負荷低減への筋道
ここからは環境負荷50%削減に向けた取り組みのお話をしたいと思います。
まず温室効果ガス削減の取り組みです。
味の素グループでは年間200万tのCO2を排出しておりますが、これらを2030年までに50%削減する目標を掲げております。主要な施策は、石炭とか重油などの燃料を環境に優しい燃料に変更する燃料転換、それから電力を再生可能エネルギーに置き換えていくということ、そして省エネ、この3つになります。そしてICP、インターナルカーボンプライシングを導入しまして、これらの施策を加速してまいります。
また低資源発酵など、従来からやっておりました技術開発によるアミノ酸生産方式そのものの進化も継続して推進してまいりますと共に、現場に即したイノベーションも追求していく考えです。シナリオ分析を事業部門中心に進めておりまして、その結果も踏まえまして、TCFD提言に基づき情報開示をやっていきます。より積極的な情報開示内容の充実を目指していきたいと考えております。
今お話をしました燃料転換と、それから再生エネルギー、電力の導入、今グローバルに目標達成に向けて着実に進めているということを示した図でございます。
原料から構築する持続可能なフードシステム
ここからは、環境負荷低減だけにとどまらず、よりポジティブな貢献にもつながる味の素グループらしい地球環境の再生、あるいは持続可能なフードシステムに向けての取り組みをご紹介したいと思います。
これは、バイオサイクル、循環型アミノ酸発酵生産の取り組みですけれども、アミノ酸というのはサトウキビやキャッサバ芋など、その地域の農作物を原料に発酵法で生産しております。アミノ酸を取り出した後にも栄養豊富な液がありまして、それを肥料、あるいは飼料としてほぼ100%活用してその地域に還元をしています。この循環によって、肥料を作るのに引き続き発生したCO2の削減に貢献することができているということです。実はこの取り組みは、もう40年以上も前から世界の拠点のアミノ酸発酵工場で導入をしております。
一方で、アミノ酸生産は今でもまだ多くのエネルギー、あるいはアンモニアを必要とするため、まだまだ改善の余地があるとも言えます。また、アミノ酸発酵原料である農作物を作る地域の持続可能な農業というのは、私達にとっても大切な課題になってきます。
アミノ酸発酵の副原料でありますアンモニアの生産について、そして持続可能な農業の取り組みについてご紹介をしたいと思います。
アンモニアは天然ガスを原料に、高温高圧大規模プラントで生産するのが一般的です。そして輸送もして保管をするという中では、多くのエネルギーとコストが発生しています。つまり多くの環境負荷がかかっております。
味の素グループは、東京工業大学と共同で画期的な生産技術の開発を行ったことで、低温低圧の小規模プラントで、需要地で、必要なときに必要な量だけアミノ酸を作ることを可能にしました。このことにより、生産および物流保管での環境負荷やコストを削減できると考えています。また、原料となる水素ですけども、これも再生可能資源でありますウッドチップから精選する技術開発も今行っております。これらの取り組みにより、アンモニア生産時のCO2排出量を従来の8分の1に抑制できる見込みであり、世界各地のアミノ酸生産拠点でアンモニアの内製化を目指していきたいというふうに考えております。アンモニアというのは、肥料の重要な原料であるとともに最近では水素のエネルギーキャリア、また燃やしてもCO2を発生しないということで、燃料としても注目が集まっております。このグリーンアンモニアの技術を確立することで、地球環境の再生、持続可能なフードシステムへのポジティブな貢献にも繋げてまいりたいと考えております。
我々の大きな活動の拠点の一つでもありますタイにおける持続可能な農業の取り組みです。味の素グループは、強みである発酵、あるいは微生物の技術をコアに、低収入で情報弱者でもあるタイの農家を支援する取り組みを展開しております。
アミノ酸発酵の原料であるキャッサバ芋を作る農家を、土壌分析、そして最適な微生物肥料の提供、あるいはモザイク病という病気が結構あるんですけれども、病害フリーを保障した苗の提供、あるいは生産性向上や病害対策のガイダンスなどを通じて自立化の支援をしております。また、志を共有する約40の産官学のパートナーとエコシステムを構築して、例えば銀行は資金調達を、あるいは保険会社の降水量に応じた気候インデックス保険、あるいは作物が本来持つ生命力を引き出して低農薬を実現する肥料の開発、あるいは人材開発会社と農業人材の育成などに取り組み、持続可能な農業を目指した活動を展開しています。これは今タイでもメディアなどでも取り上げられ、パートナーも増えているという状況です。今後この活動を持続可能なフードシステムへの貢献へと繋げていきたいと考えています。
電子材料から見たサステナビリティ
次に、電子材料の事業についてお話をします。
電子材料事業はアミノ酸の反応性を利用した事業です。現在、半導体の事業はご存知の通り急激な勢いで拡大をしております。味の素ビルドアップフィルム、ABFは半導体のパッケージ基板の材料として使われている絶縁フィルムです。
ICチップを保護するという役割とともに、ICチップからの電子信号伝達のロスを低減する効果があります。また、半導体自体が小型化されることも含めて、消費電力当たりの性能というのが非常にこの10年間で大きく伸びています。約100倍ぐらいになっておりますけれども、この性能の向上にもICチップの微細化があってこそできるということで、ここでもABFは大きな役割を果たしております。つまりABFは半導体の低エネルギー化と電気信号の伝達ロス低減を通じて、CO2の排出量削減に貢献できております。
また電子材料事業では、新たな磁性材料、磁性を持つ素材ですね、AFTINNOVA®を開発いたしました。こちらは半導体のパッケージの中のコイル部品、インダクタ性能を発揮するところに使われておりますけれども、これにより半導体部品化の小型化、そして起動時間の短縮が実現できておりまして、節電あるいは省エネに貢献をしております。半導体の用途はPCからサーバー、ネットワーク、そして車載など今後大きな広がりが予想される中、消費電力の削減、CO2の排出削減で環境負荷低減に貢献していきたいと考えております。
昨日リリースをさせていただきました通り、味の素グループはグループ初となるSDGs債、サステナビリティボンドを10月に発行させていただく予定でございます。
質疑応答
投資家1:サステナビリティの取り組みのところ大変よく理解できました。一方でこのサステナビリティィの課題というのはトップダウンの部分もありますけど、ボトムアップで、どんどん世代をまたいで課題を共有して進めていかなければいけないというところがあると思います。社内への浸透というところについて本日は言及の方はありませんでしたが、どういう形でより社内に浸透させて、より発展させていきたいのか、お考えをご教授ください。
A:ご質問いただいた点本当に大事だと思っております。今回、21年度からサステナビリティの推進体制を強化しておりまして、執行の部分ではサステナビリティ委員会というものを設けて推進しています。それはサステナビリティ部門だけがやるわけではもちろんなく、事業の現場、工場等ございますのでグローバルの法人も含めて参画をして、もちろんトップには委員会のメンバーとして入っていただいておりますし、その中でワーキングチームというのも入れて、実際に現場と一緒にやっていくという体制もスタートしております。
おっしゃるようにその従業員1人1人が自分ごと化して取り組むということはとても大切だと思っておりまして、弊社はインターナルコミュニケーションにもツールを活用して力を入れていますけども、そこで新しい体制でサステナビリティがスタートしたよということとか、こういう考え方でやってるよということを今出し始めていますし、これからはそこをより強化して従業員1人1人が自分ごと化できるような取り組みもやっていこうと考えております。
自分ごと化するといってもある種、最低限の知識というか情報は持っていないとなかなか難しい領域もあろうかと思いますので、今、栄養は先行して従業員の栄養リテラシーということで、eラーニングだとか講義みたいなことを含めてかなり幅広くやっておりまして、今それを追いかける形で環境にも取り組んでおります。
大変大事なポイントをご指摘いただいたと思います、ありがとうございました。
投資家1:同業他社に環境管理するキリンさんが非常にやはりTCFD対応を含めましても、グローバルでも先進的なので、ぜひそこにキャッチアップ、もしくはそれ以上になれるように、ぜひ業界全体を底上げするためにもお願いします。
投資家2:サステナビリティの領域の話で、今ですと投資家も含めまして、インパクトという領域で企業さんがどのようなアウトカムを創出されているのかというのに関して、より情報を知りたいという意図を持っておりまして、今回のご説明も、DALYs(障害調整生存年数)の話とか、非常に興味深く聞かせていただいておりました。前回の統合報告書でもDALYsに関しては詳しく書かれていたと思うんですけれども、今後はこのようなインパクトの情報というのをどのようにモニタリングされていくのかというのも、投資家として非常に興味がある領域になります。
今回のお時間でお話されるにはちょっと時間が限られていると思いますが、現状のデータと、2030年に向けた目標とかのデータをどのようにモニタリングされていこうと今考えてらっしゃるのか、何かご示唆いただけるものあれば教えていただければと思います。
A:これは東京大学をはじめとする大学と県の共同研究を仕掛けているものでありまして、これがうま味を使ったおいしい減塩を推奨すると、どの程度食塩摂取量を減らすことができるのかという、いわゆる我々のアウトプットを、食塩摂取量の減少というアウトカムに紐づけるための研究でありまして、これについては日本での研究とありますが、G20に展開する予定になっております。
これによりまして我々の10億人の健康寿命の延伸へのタッチポイントについては、あくまでもアウトプットなんですけども、これをアウトカムに読み替えるような、そういう算式を構築しようと考えておりまして、これは中間発表の位置づけで、今年の12月に開催されるN4G、東京営業サミットの場で発表させていただく予定になっております。これらを追いかけることによって、我々のアプローチがアウトカムとなって、ご評価いただけるようにしてまいりたいと思います。
現在は投資家の皆さんが、各食に関わる企業のアウトカム評価をするときにご利用なさってるのはATNI(※)というオランダの評価機関のものぐらいしかないと思うんですね。彼らの対象になっておりますのは、全て加工食品の栄養価値評価にとどまっておりますので、これでは本当の意味での健康寿命の延伸というか、本当のこの健康への貢献というものが測りきれない、ごく一部しか反映されてないと我々は問題意識を持っておりまして、これらについてもATNI社に対して、こういう課題があるけれども我々のような研究の仕方を反映すれば、いわゆるメニューで栄養価を評価するような仕組みを導入できれば、より広範な意味での正しい貢献が図れるのではないかということを今ロビイングを一生懸命やっているところでありまして、そういったことも併せまして、よりアウトカムの透明性を高めるためのアプローチをしてまいりたいと思っております。
投資家3:1点だけ教えてください。社長様の資料でも地球環境負荷50%削減と、10億人の健康寿命延伸のリボンの絵というのが今回非常に印象深く拝見しています。御社は前から経済価値と社会価値の向上というのはASVでずっと追求してこられた歴史で、あえて今何が違うのかといえば、この環境負荷50%もあわせてやるんだという強いコミットメントというのが、今すごく強く出ているなというところが素晴らしい。素晴らしいんだけれども、他の会社もみんなそうしたいけどできないですよね、これ簡単じゃないですよねというのが本当のところだと思います。このリボンのところでフードシステムを変えていくことで、これはできるんですよという強いコミットメントがあるのが味の素さんというところですね、私の理解では。味の素さん、じゃあどうやってフードシステムを変えるんですかと思ってすごく楽しみに聞いていたんですけれども、5つぐらいポイントがありますよという素晴らしいご説明いただきました。アウトカムの可視化、アミノ酸のシステムの力がすごいんです、エコシステムを意識したステークホルダー経営をしてます、あるいは経営力を変えるんです、ポートフォリオ設定力です、ここら辺のことをおっしゃっていただいたかなと思っているんですけれども。競合他社と圧倒的な差をつけて、他の会社はこれを両立できないんだけれども、御社ができる最も大事なポイントってどういうところですか。それから、これからもっともっと強くしていかなくちゃいけないポイントってどこですかということについて、ご説明いただければと思います。よろしくお願いいたします。
A:味の素は食品セクターの中で考えると非常に環境負荷の大きな会社になっていると思います。これは我々のアウトプットが、主にアミノ酸で構成された製品が大きいためであります。それをバイオという、いわゆるバイオインダストリーというこれまでの産業でアミノ酸を作っているがために、大きな環境負荷を使ってアミノ酸、健康にいいアミノ酸を使って人々の健康に貢献しているという、そういうバリューネットワークになっております。我々はそこの部分を逆手にとって、我々ならではのバイオインダストリーの新しい姿を、先ほどの一つの事例としてご紹介しておりますような、オンサイトアンモニアのようないわゆるグリーンなエネルギーで、アミノ酸を作れるようにしていく。そのシステムの中に、原料調達をしていただいている農家の方々を巻き込んで、エコシステムを作っていくことによって、いわゆる人権や貧困の観点でもサステナビリティを高めていこうと、こういう仕組み。こういうふうにして作られた新しいサステナブルなアミノ酸製品で人々の健康に貢献していく企業に生まれ変わっていこうと、こういう戦略ストーリーが我々の一番のいわゆる骨太な戦略になると思います。ここの領域は非常に我々のユニークな分野ですが、多くのバイオインダストリーの皆様も、アミノ酸を作ってらっしゃる方々は主にBtoBのところでビジネスが止まっておりますので、我々のところは農家から、それから発酵で物を作るところから、そして最終的な製品をBtoCにお届けするというところまで一気通貫でやれてる我々の特徴を、最大限に生かしてまいりたいとこのように考えております。それが我々の一番の柱になると思います。
投資家3:ありがとうございました。そうすると私なんかは、経営力とかアウトカムの可視化とかがこれからすごく頑張るところなのかなと思っていたんですけれども、というよりは、むしろ1丁目1番地の、やっぱりバイオ技術、アミノ酸の技術のところがぐっと成果を出していくというのが成果を上げるためのキードライバーだというような見方でよろしいんでしょうか。
A:ええ、やはりこのアウトカムというところに関して言っても、できる限り見える化をしていくということがとても重要です。それは、これに賛同してくれる皆さんを、ステークホルダーを増やすという観点でも非常に重要ですし、あるいは我々の原材料を調達させていただいている農家の皆さんや、それをデリバリーされるパートナーの皆さんのところというのは、なかなか我々のアウトカムの貢献ということについて言うと、どちらかというと外側にいらっしゃる方々という要素が強いんですけども、そういった皆さんをパートナーシップで結んでいくことによって、より貢献のレベルが大きくなる。具体的に言うと、温室効果ガスで言うと、スコープ1スコープ2の世界から、スコープ3の領域まで我々のこのパートナーシップを広げていくと、それを見える化するということに繋げてまいりたいと考えております。
投資家3:わかりました。スコープ3のところの見える化、可視化というところへの踏み込みが他社よりも圧倒的に速いというところが強みだなというような理解をさせていただきました。ありがとうございました。
(※)ATNIに関する詳細の説明は、下記の「全ての人にとって手頃で 健康な食生活の実現を」の記事からご覧いただけます。